こどもの日に贈る、父から息子への手紙

君が生まれて10年、子供時代の半分が過ぎたね。これまで断片的に、そして 散発
的にしか、世の中のことの話や君が進む道へのアドバイスをしてこなかった ので、この
10年という区切りに少し話をしよう。  

 君は今、ほとんど毎日、塾に勉強にしに行って、忙しそうだね。お父さんが 「何のため
に勉強するの?」と聞くと、「頭が良くなりたいから」と答えたね。  確かに、特に君の年
齢では、頭をできる限り使うことはとても重要だ。それ は、認めるよ。でも、今の君のゴ
ールは、開成学園に入ることだよね。自分の頭 が良くなったって証明したい気持ちは
わかるし、お父さんと同じように、いい学 校に行きたいと思うことは嬉しいよ。

 ただ、ここで考えて欲しいことがあるんだ。

 それは、‘時代の流れ’なんだ。  お父さんが子供の頃、いや大学を卒業するときだっ
て、そんなことを考えたこ ともなかったし、それを考えることの重要性を教えてくれる人
もいなかった。と いうより、ほとんどの人が考えられなかったのだろう。

 まだお父さんの時代までは、それを考えなくても、何とかうまくいった。でも、 君の時
代は、もうこれまでのやり方は通用しないんだ。  それを、これから説明しよう。  お父
さんの時代では、母親たちは「いい大学に入って、いい会社に入ってくれ れば、いい生
活が保証される」と思っていた(今の母親たちも大抵はそうかもし れないけれど、もうそ
ういう時代ではないんだ)。

 社会が安定している時代で、普通の経済的幸せを手に入れるためなら、それは 正し
かった。

 君のおばあちゃんとお父さんは、就職のとき、こんな会話をした。

おばあちゃん「東大出たのに、なぜ大蔵省に入らないの?
お父さん「官僚なんかになりたくないよ、給料も安いし。金融で稼ぐよ」
おばあちゃん「じゃあ、日銀に入ったらいいじゃない?」
お父さん「日銀も官僚みたいなもので、民間に行くよ」
おばあちゃん「じゃあ、興銀(元日本興業銀行)に行けばいいじゃない」

 なぜ、こんな会話を書いているかというと、この会話の中に、時代の流れの一 部が反
映されているからなんだ。

 君のおばあちゃんは、サラリーマンだったら、官僚が一番と考えているわけだ。 それ
に対して、お父さんは民間、というより‘お金’を重視していたわけだ。  おばあちゃんの
時代は、官僚が花形スターであり、特に昭和30年代から50 年代にかけて官僚が日
本を動かしていたと言っても過言ではない時代だった。後 で、説明する「官の時代」だ。

 ところが、お父さんが大学を出る頃は、バブルの時代だったんだ。バブルって いう言
葉、聞いたことがあるよね。どういう風に説明したらいいかな?お金がお 金を生んでし
まい、ものの価値が軽んじられた時代と言ったら良いだろうか。だ から、能力のない人
でも、お金を取り扱っている人なら、お金儲けが簡単にでき た時代なんだ。だって、買
っていれば、何でも値上がりしたから、儲かっちゃた んだ。特に、不動産の値上がりは
ひどかった。お金があり、不動産を買えれば、 一儲けできたって訳さ。そんなあぶく銭、
つまり努力もなしに大金を手にした人 たちは、そのお金を湯水のように使った。不動
産や株を買うことができない人も、 あぶく銭をたくさん使ってくれる人たちのお蔭で、経
済が良くなり会社も潤い、 収入が増えるという恩恵を受けたんだよ。残念ながらお父
さんは、学生から社会 人になりたてだったので、その恩恵をあまり受けていないけど。

 バブルは92年頃にはじけちゃったけど、人々のこころには、お金がすべて、 お金が
あれば幸せになれる、なんていう気持ちが強くなっちゃったんだ。だから、 この20年
間、日本の経済はずっと良くないけど、自分はお金儲けをしよう、 お金がたくさん欲し
い、お金をたくさん稼いでいる人は偉い、なんている風潮が まかり通っていたんだ。

 恥ずかしいけど、お父さんも30代半ばまでは、そんな時代の流れに流され、 お金を
稼ぐことやお金持ちになることばかり考えていたんだ。  このような‘お金’が一番の時
代は、お金を稼ぐ商人の時代だから「商の 時代」と言えるだろう。  でも、お父さんは、
君が2~3歳の時に目覚めたんだ。お金が一番じゃない、 幸せが一番だとね。その辺
のことは、君も持っている、お父さんが書いた本 「大恐慌でもあなたの資産を3倍に
する投資術」のあとがきを読んでくれ。

 さあ、ここで問題だ。おばあちゃんの時代である「官の時代」から、お父さ んの時代
「商の時代」と来て、君の時代は何の時代になるだろうか?  難しい?  そうだね。急
に言われたって、どう考えたら良いかわからないよね。  未来のことなんて、わからな
いとも思うかもしれない。

 でも、未来のことは、簡単にわかるんだよ。  それはね、歴史に学ぶんだ。  えっ、
それは過去のことじゃないかって。  人というものは、少しずつ進化、進歩はしている
けど、それはほんの少しだ けであって、歴史の大きな流れからみたら、ほとんど変わ
っていないんだ。わ かりやすく言うと、地球の歴史から見たら、人間の時代なんてほ
んの一瞬じゃ ないか。だから、長い歴史からみたら、変化ないって考えられるよね。

 だから、人間の過去を見れば、未来も見えるってことさ。こういう観点から、 歴史を
学ぶと面白くなるよ。  こんな言葉もある。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ
という言葉だ。 賢い人は、人間の長い歴史の中の、沢山の人の経験に学び自分に
活かしていくけ れど、愚かな人は、自分のちっぽけな経験しか参考にしないから、間
違えばかり する、という意味だ。

 だから君も、歴史を学び、賢い人になって、正しい行動をして欲しい。  お父さんも、
大学受験の時は日本史、世界史を選択していたし、大学に入って も、西洋史、中国
史なども勉強した。高校の時の漢文だって、その漢語で書かれ ている内容は、中国
史そのものじゃないか。でも、お父さんの歴史の勉強はまだ まだ足りないし、それを
活かすことができることも最近までは知らなかった。君 には、是非、歴史を活かして
欲しいと思う。  話を戻そう。

 次の時代、つまり、君の時代は何かということを考えるために、過去へタイム スリ
ップしてみよう。  そうだなー、まず大河ドラマでよくやっている戦国時代から江戸時
代を行って みようか。  織田信長や豊臣秀吉が出てくる時代は、戦国時代と言って、
日本国中に戦国武 将がいて、それぞれの地域を治め、それぞれが縄張り争いのよ
うに戦争を繰り返 していたね。それは、全国の武家を統一していた室町幕府が弱体
化して、それぞ れの地域の武将たちが好き勝手やってしまう時代だった。こうした混
乱の中、全 国を統一しようと立ち上がる武将が次々と現れ、遂に織田信長が全国
統一まであ と一歩の所までいったけど明智光秀の謀反(むほん)に倒れ、その後を
豊臣秀吉 が引き継ぎ全国を統一。秀吉の死後、その政権を徳川家康が奪取し、徳
川家一族 の世襲(せしゅう)体制を作ったわけだ。

 これを見てわかるように、混乱を鎮め統一するには武力を持ってする「武の時 代」
なわけだ。  でも、一旦統一できてしまえば、武力は必要になくなる。その後必要に
なるの は、出来上がった体制を維持していくための仕組みだ。江戸時代なら、奉行
制や ら大奥といった組織だね。つまり、「官の時代」がやってくるわけだ。

 こうして世の中が平穏になってくると経済も発展することになり、その後幅を 利かし
だすのが商人だね。教科書的には「士・農・工・商」という身分制度を習 うかもしれな
いけど、江戸時代中盤からは、真の実力者は商人になってくるわけ なんだ。  この
流れをおさらいすると、まず混乱の時代、そして全国統一のために「武」 が力を示す
が、一旦平和になるとそれを維持するために官僚が必要になり「官の 時代」となる。
官僚によって世の中が維持される仕組みが出来上がると経済が発 展し、商人が力
をつける「商の時代」となるんだね。  次に江戸時代末期にタイムスリップしてみよう。

 江戸幕府の力が弱まってくると、各藩の統制がだんだん利かなくなってくる。 そこ
へアメリカのペリーが黒船に乗ってやってくると、幕府には諸外国と戦う力 はない、
このままでは日本が中国のように欧米列強の属国とされてしまうのでは ないかとい
う危惧が広まって、諸藩が立ち上がり、討幕運動が盛んになったわけだ。  そして
最後に薩長同盟、薩摩藩と長州藩の連合軍が会津藩や新撰組を中心とし た幕府
軍を打ち破り、明治政府を樹立したんだ。またしても「武力」を持って全 国を統一し
たんだね。討幕運動から幕府滅亡、明治政府樹立までが「武の時代」だね。

 明治政府が成立すると、日本を諸外国の餌食にならないように強くしなければ な
らない。だから、立憲君主制という天皇を頂点とした、官僚制を作り上げ統治 して
いくことになる。再び、「官の時代」の到来だね。だけど、日清、日露戦争 と勝利す
るまでは、日本は不平等条約に苦しみ、臥薪嘗胆(がしんしょうたん) の時代でもあ
り、武と官の両方がバランスよくワークさせていたと言えるよね。 ようやく大正デモ
クラシーなんていう時代に、世の中景気が良くなって、 「商の時代」に入るわけだ。
第1次世界大戦は欧州が戦場なったけど、日本には 戦禍がなく、欧州が戦争やっ
ている間に世界の商圏を拡げることができ儲かったんだ。

 まだ現代史を勉強していないからわからないかもしれないけど、この時代は、
君のひーおじいちゃんが生きていた頃だ。君のひーおじーちゃんは、商人だった ん
だよ。商人の時代に商人やっていたので結構羽振りが良かったらしい。君のお ば
ーちゃんが言っていた。でも、お父さんが子供のころに見た彼は、落ちぶれて いた
けどね(苦笑)。ここにも教訓がある。それは、時代が変わった時には、そ の前の
ヒーローは次の時代では通用しなくなるってこと。だから、時代の変化を 見抜くこ
とはとても大事なんだ。

 昭和に話を戻すと、第1次世界大戦頃までは良かったんだけど、その後昭和初
期に金融恐慌とデフレ経済になっちゃうんだ。難しい言葉だと思うけど、まさに 今
の世界、そして日本の状況に近いんだ。

 世界中、商売がうまくいかなくなると、欧米列強、アメリカ、イギリス、フラ ンスな
どは、まだまだ遅れている国々、例えば中国、インド、東南アジア諸国、 南米諸国
などを自分の国の配下にしようと争うようになったんだ。これを 「帝国主義」という
んだけど、言葉だけ覚えておこうね。日本も負けじと韓国を 併合、つまり日本にし
てしまい、中国東北部を支配下にしようと動いたんだ。こ れを悪いことをしたかの
ごとく言う人々がいるけど、仕方がなかったんだ。日本 がそうしなければ、日本が
食われてしまう時代だったんだよ。こうして、再び 「武の時代」になったわけだ。

 この「武の時代」は第2次世界大戦が日本の敗北で終わることにより終わり、 ま
ずはGHQの占領下、復興に向けて動き出す。1951年サンフランシスコ講和 条
約をもって、ようやく日本は独立国として、復興に向けて歩みだすことがで きたわ
けだ。

 そして、ここからが君のおばーちゃんの時代、ヒーローである官僚を中心とし て、
昭和30年代の高度成長期を迎えるってわけさ。  さあ、長々と歴史の話を話した
から、だんだん眠くなったちゃったじゃないかな?(笑) でも、わかったことがある
よね。

 「武」→「官」→「商」→「武」→・・・というサイクルがあったことを。 このサイクル
は、今話した短い日本の歴史の中だけでなく、古今東西、すべて が当てはまるサ
イクルなんだ。それは君が歴史を学んでいく中で、確認してくれ。  ここまで来た
ら、頭の良い君のことだから、君の時代は、どの時代になるか はわかるよね。お
父さんの時代は「商の時代」の末期なのだから。  次に考えなければいけないこ
とは、その時代に君が何をなすべきかだよね。 何ができるか、かもしれない。

 まさか「武の時代」だから、喧嘩に強くなるためにボクシングとか空手やる とか、
軍人になるために自衛隊に入る、もうちょっと賢いか、防衛大学校に入 って軍隊
の幹部になるなんて考えていないよね。  もちろん、そういう力も大切だけど、も
っと大切なことがある。武力を行使 することは別の人に任せて、その武力をどう
使うかを教える道もあるよ。

 それを説明するために、もう一度江戸末期に戻ってみよう。幕末のころ、尊 王
攘夷運動とか尊王倒幕運動が起きる前に、そうした考えの元になることを教 え
た人物たちがいたんだ。その一人が吉田松陰と言って、29歳にして幕府に 処
刑されてしまったんだけど、彼の松下村塾で学んだ志士たちが日本を変えて い
ったんだよ。何が言いたいかというと、世の中の方向性を決めるために、で き
ることがあるんじゃないかってね。

 話は変わるけど、君が当たり前のように行こうと考えている東京大学につい て
話しておこう。東京大学は、明治10年に官僚を養成するためにできた学校 なん
だ。そして、その姿勢はあまり変わっていないんじゃないかな。東大の卒 業生が
官僚となって今も日本を動かしているけど、日本が衰退していくことを 止めるこ
とはできないでいる。組織としてだけど、過去の成功にしがみつき、 新しく変革す
ることができなくなっているのだと思う。もう一つは、官僚とは 公僕と言って、公
(おおやけ)に使えるという意味があるのだけど、「商の時 代」に入って、官であ
るにもかかわらず、お金を求めてしまったのだね。だか ら、平気で天下りが横行
し、天下り先に多額の税金をつぎ込むことができてし まうだね。もちろん一人一
人の官僚は優秀であり、高潔な人もいるかもしれな いけど、組織としては「商の
時代」に毒されてしまったのだね。

 ちなみに、開成学園は、東大設立に先立ち明治4年に、共立(きょうりゅう) 学
校という名前で設立された。あのNHKドラマ「坂の上の雲」で正岡子規や秋元
真之、そして夏目漱石などを輩出した学校だね。こうした時代の先端をゆく人 々
と出会う確率が高いという意味では、開成や東大を選択するというのもあり か
もしれない。

 でも時代は、グローバルの時代。日本国内でのチャンスだけを考えていては、
井の中の蛙になってしまう。  君には、もっともっと開かれた可能性が拡がって
いるんだ。

 だから、これからお父さんが話すことは、お父さんが考える方法論だ。これ に
従う必要はないし、本来ならば、君自身で考え選択し、行動すべきだと思う。 た
だ、君はまだ10歳であり、お父さんの生き方にある程度、従わなければな らな
い部分がある。特に、住む場所などはそうだ。そうした制約下において、 お父さ
んが君にしてあげることができ、君が現在、選択できることをアドバイ スしよう。

 まず、君がお父さんの年齢になった時に、どうなっているかを想像してみよ う。
想像できたかな?次に、40歳の時は?30歳の時は?そして20歳の時は?

 きっと君は、難しい、できないと答えるかもしれない。でも、君の未来は、 君の
想像から生まれるんだよ。未来に、自分がどうなっていたいかということ を考え
てみよう。すぐにはできないかもしれないけど、それが君の軸になるの だから。
それが見えれば、君が今何を勉強したらよいかもわかってくるし、そ うなるべく
行動するようになる。そうすれば、君の作った、自分の未来像は実 現すること
になるのだよ。自分の未来は、与えられるものではなく、自分で創 り出すもの
なのだから。

 さて、ここからが今の君への、具体的なアドバイスになる。

読者の皆様、

 ここからのアドバイスは、あなたがあなたのご子息のために創って下さい。

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